本年最後のレヴューは、アンジェイ・ワイダ監督の『カティンの森』。
といってもこの作品、2007年の作品で、日本での公開に2年も経ってしまった。
『地下水道』、『灰とダイヤモンド』、『鷲の指輪』と、ワイダ監督は、第2次世界大戦におけるポーランドの国内軍の悲劇と、戦後から冷戦終結まで政権を牛耳る事になる共産主義政権(とその後ろ盾であるソ連)への恨み節を、一貫して描き続けてきたが、今回はポーランドとソ連(ロシア)との間の最大の確執の一つである「カティンの森事件」を描いた。
この映画(というよりワイダ監督の映画)、とにかくポーランドが辿った現代史を予習しておかないと、内容がさっぱり分からないだろう。
1939年9月、ドイツはポーランドに侵攻。第2次世界大戦の勃発である。
ほどなくして、東隣の隣国ソ連がポーランドに侵攻。ドイツとソ連は、事前にポーランドの東西分割の秘密協定を結んでいたのである。
東西から攻め込まれたポーランドはあえなく崩壊。西側半分をドイツに、東側半分をソ連に占領される事になる。
映画冒頭で、ドイツ軍から逃げ惑う人々と、ソ連軍から逃げ惑う人々が、橋の上で遭遇する場面が出てくるが、まさにこの場面こそ、ドイツとソ連のポーランド侵攻だ。
その後約2年ほど、ポーランドはドイツとソ連の分割占領状態に置かれるが、1941年6月、かねてより東方に目を付けていたヒトラーは、今度は不可侵条約を破り、ソ連への侵攻を開始する。
独ソ戦当初、ソ連はドイツに大敗北を喫し、首都モスクワ目前まで攻め込まれる。
当然、ソ連侵攻の途上にあったポーランド東側半分は、ドイツの統治下に。
そして、ソ連国内のスモレンスクを占領したドイツ軍は、カティンの近くの森で、大量のポーランド人将校の遺体を発見する。
これが「カティンの森事件」だ。この事件は、赤十字の調査団も含め調査され、ソ連が、捕虜にしたポーランド人将校を虐殺したと、当時のナチス政権によって、世界に宣伝される事になる。
映画は、主人公のアンジェイ大尉等将校が、ソ連軍の捕虜になるところから処刑されるまでと、アンジェイ大尉の妻アンナ等犠牲者の家族達の、ドイツ・ソ連の侵攻から、戦後ドイツから解放され、共産党政権(ソ連軍)統治下に入る姿を描いている。
犠牲者等の、捕虜生活の不安、そして釈放への期待(と同時に本当に釈放なのか?という疑念)と、犠牲者等の帰還を待ちわびる家族達の思いを淡々と描く。
映画で描かれているように、この事件は、ドイツ側はソ連の暴虐と宣伝したが、ドイツを撃退したソ連側は、(対ユダヤ人同様の)ナチスの残虐行為と非難合戦を繰り広げた。
戦後共産主義政権下のポーランドでは、この問題は、ソ連に遠慮してタブー視されてきた。
この問題が解明され、ソ連が自らの犯行を認めたのは、ゴルバチョフの登場してから、1989年以降まで待たなければならなかった。
終戦直後までしか、映画では描かれていないが、ドイツそしてソ連という大国に翻弄される姿を、被害者等を通して描く、ワイダ監督の手腕には感心させられる。
今回の映画で、一つ気になった部分がある。
それは、終戦直後ポーランドの人達が迎えたそれぞれの境遇だ。
これまでのワイダ監督の映画では、国内軍は悲劇のヒーロー的な扱いで、そして共産主義政権側は悪者的な扱いだったが、この映画では、国内軍(や共産主義に反発する人達)と、戦後共産主義側についた(つかざる得なかった)、アンジェイ大尉の同僚のイェジや、大将家の召使などを、平等な扱いにしているところは注目に値する。
国民同士でも、体制によって引き裂かれた悲劇が、この国の歴史なのだろう。
2007年ポーランド作品
監督:アンジェイ・ワイダ


